意外と知らない日本の漆・漆器の歴史と特徴

漆って一体なに?

漆器は海外で「JAPAN」(ジャパン)と呼ばれています。それは漆器が日本特有の工芸品だと世界が認めているということです。

中でも岩多箸店のある石川県輪島市の伝統的工芸品輪島塗は能登の風土の中で息づき育まれ、この地方の気候や自然条件の中で長い年月を経て完成されたものです。

輪島塗は堅牢で優美、漆器の中でも最高級の実用漆器として多くの人に使われております。

そしてこの漆器を作るために必ず必要なのは、「漆」です。漆器という文字にも漆が入っていますね。この漆こそが、器の魅力を引き出す大切な役割を持っています。

漆の歴史

漆には、とても長い歴史があります。約1万年前の縄文時代の装飾品にも漆が使用されていました。

  • 縄文・弥生時代は、土器や農耕具、漁具など生活するための道具に漆を使用していました。しかし、この時代は出土品の数も少ないため、あまり詳しくは分かっていません。
  • 飛鳥・奈良時代になると、仏教の伝来により、仏具や寺院などにたくさんの漆が使用されるようになりました。その結果、国による漆器生産が始まりました。奈良県の法隆寺が所蔵している国宝「玉虫厨子(たまむしのずし)」は、木造に漆が塗装されています。さらに漆を使用した絵も描かれています。
  • 鎌倉・室町時代になると、漆器産業も盛んになり、貴族が日常的に使う食器にも漆が使用されるようになりました。さらに武士が使用する防具や刀などにも漆塗りが使用されていました。そして、漆塗りの技法のひとつ「根来塗(ねごろぬり)」が誕生しました。この技法は、下塗りした黒漆の上に、朱漆を塗りあげます。そうすることで、長年使用した漆器が、摩擦により表面の朱漆がはげ、鮮やかな黒漆が模様のように浮き出てきます。
  • 江戸時代はいろいろな文化が栄えました。漆塗りもその一つです。各地に豪商が誕生し、全国でも地域の特産品として漆器が生産されていきました。石川県の輪島塗、福島県の会津塗、青森県の津軽塗などが有名です。このころは、男性は水戸黄門でもおなじみの印籠を装飾品として持つことが流行になっており、様々な漆の技法が用いられた印籠が、数多く作られました。そして開国により、海外との貿易が盛んになり、繊細で鮮やかな日本の漆器は、海外で人気になりました。このころから、海外では日本の漆、漆器を「JAPAN」と呼ぶようになりました。
  • 明治・大正・昭和時代になると、産業革命による近代化や、戦争による軍事費など、高価な漆器の需要が大きく減っていきました。しかし、高度経済成長により国内需要が高まり、再び漆器の需要が高まりました。

漆はどうやって取るのか?

漆という言葉は皆さん知っていると思いますが、この漆がどのように作られているかは意外と知られていません。漆は、ウルシの木から取れる樹液のことなんです。この樹液のことを「荒味漆(あらみうるし)」と呼びます。この荒味漆を濾して、不純物を取り除いた漆を「生漆(きうるし)」と呼びます。さらにここから、なやし(生漆をかき混ぜて、漆の成分を均一にする)やくろめ(生漆を加熱しながら混ぜ、水分を蒸発させる)の工程を行い、漆を精製していきます。

一見、簡単そうに見える流れですが、とても大変な作業になります。

6月頃から、漆を採取する作業が始まります。ウルシの木に対して水平に傷をつけます。この傷を4~5日ごとに少しずつ長くしていき、にじみ出てきた樹液を採取していきます。この作業を9月頃まで行います。その後は、「裏目掻き」と呼ばれる、木の半周分まで傷を長くし、漆を採取します。そして最後に「止め掻き」と呼ばれる、木一周分に傷をつけて、漆を取り切ります。この止め掻きをすると、木の血管も傷つけてしまうので、木は死んでしまい伐採します。この一連の流れを「殺し掻き」と呼びます。

一本の木から採取できる漆の量は、約200グラムです。ウルシの木が育つまでに約10年から20年かかることを考えれば、とても貴重であることが分かります。

もうひとつ採取方法があり、「養生掻き(ようじょうがき)」と呼ばれる、裏目掻きや殺し掻きを行わずに、毎年漆を採取する方法です。木を枯らさないように傷をつけていきます。日本では江戸時代まではこちらの方法で漆を採取していました。

なぜ漆に触れるとかぶれるのか?

漆の主成分であるウルシオールが原因です。ウルシオールが皮膚内に侵入しようとすると、体の細胞が撃退しようとします。その結果、アレルギー反応を引き起こし炎症してしまいます。その後、水膨れの症状となり、治るまで1週間から2週間ほどかかります。その間は、かゆみや痛みを伴います。

輪島塗の商品など、実際に乾いている漆ならかぶれることはほぼありません。しかし、樹液の状態の漆に触れてしまうとほとんどの人がかぶれてしまいます。

もしも、漆が皮膚についた場合は、すぐに油で漆をふき取りましょう。

昔は、輪島市を観光しているだけで、皮膚の弱い人はかぶれていたという言い伝えもあります。

漆の抗菌性

漆の主成分のウルシオールとゴム質、水の割合によって漆の良し悪しが決まります。強い接着力や抗菌性があり、漆器に付いた大腸菌は24時間後にほぼ死滅するなど、漆に優れた抗菌効果があることが金沢工大の比較実験で明らかになりました。

漆器は100%天然素材のため、化学製品や合成物質は含まれずとても安心できます。さらに優れた抗菌効果により、毎日の食事に大きな安心感があります。

漆の乾かし方

絵の具のように時間がたてば、自然乾燥すると思っている人もいると思いますが、漆は違います。

漆を乾かすのに重要なのは適切な温度と湿度が必要になります。温度は20℃~30℃、湿度は70%~85%に保つことが重要となります。

なぜ温度と湿度が重要なのか?

それは、漆の成分の中の「ラッカーゼ」と呼ばれる酵素に秘密があります。ラッカーゼ酵素は空気中の水分から酸素を取り込み、漆の主成分である「ウルシオール」と酸化反応を引き起こすことにより、段々と固まっていきます。この時の最適な温度と湿度が、上記の通りであるであるからだ。

一般的に「乾く」というのは、水分が空気中に蒸発する、というイメージがありますが、漆は全く逆で、空気中の水分を取り込んで乾きます。

漆を濾す(こす)作業

実際に漆を使って作業する前には必ず準備することがあります。

それは漆を濾す(こす)作業です。簡単に言うと、漆の中にある不純物(ゴミやほこり)を取り除く作業のことです。漆を濾さないと、塗った後の仕上がりに影響してしまいます。

薄くてじょうぶな濾し紙を重ねて茶碗の上に置き、その中に漆を入れていきます。

こちらは、『うま』という道具にセットし、絞るように捻ります。この時、あまり強く捻らず、漆の重さで濾すことが大事です。

強く捻りすぎると、濾し紙が破れてしまいます。

漆ってどんな色

漆の元である生漆(きうるし)は、ベージュ色です。そこから生漆を精製すると半透明な飴色の透漆(すきうるし)が出来上がります。この時に鉄分や水酸化鉄を加えて精製を行うと、黒色の漆が出来上がります。

透漆に顔料を混ぜると、赤色やピンク、緑、黄色など色々な色の漆が出来上がります。

 

漆を使用する技法(漆芸)

漆を使用する技法(漆芸)は、いろいろな種類があります。

  • 蒔絵(まきえ)・・・蒔絵筆と呼ばれる細い筆に漆をつけ、絵を描き、その上から金粉や銀粉をそっと蒔く。

  • 沈金(ちんきん)・・・のみなどの刃物で模様を彫り、溝の部分に漆を沈めて金粉を刷り込む。

  • 螺鈿(らでん)・・・貝殻の内側の真珠層部分を切り出し、模様を表現する。
  • 彫漆(ちょうしつ)・・・木地に何重にも漆を塗り重ね、彫刻刀で模様を掘り出す。
  • 平文(ひょうもん)・・・金や銀を薄く伸ばし、切り取り模様を付ける
  • 漆絵(うるしえ)・・・色漆を使用し、絵や模様を描く。

この他にも、漆で模様を描きその上に金箔を張る「箔絵(はくえ)」、漆で模様を描きその上に卵の殻を置く「卵殻(らんかく)」など、昔から受け継がれてきた、伝統的な漆芸があります。

 

漆を使用した工芸品(漆器)

昔から各地で漆器は作られてきました。輪島塗のほかにも石川県には山中塗もあり、日本全国で会津塗(福島県)、津軽塗(青森県)、若狭塗(福井県)、京漆器(京都府)など30を超える産地で漆器が作られています。各地で、いろいろな漆器が作られているがどの漆器にも共通していることがあります。それは、頑丈であることです。漆は乾くことにより丈夫さを持ちます。その漆を何重にも塗ることにより、より堅牢になります。

 

なぜ漆器は食洗器や乾燥機、電子レンジを使用してはいけないのか?

漆器は、天然木と漆から作られます。なので高温には弱く、乾燥にも弱いため、変形したり傷がついたりしてしまう可能性があります。さらに、漆は表面が白くなる可能性があります。加飾されている金も、黒ずんでしまう可能性があるため、漆器は手洗いすることが基本です。スポンジと中性洗剤で優しく洗いましょう。一般的なお手入れとなにも変わりありません。

※漆器は湿度を嫌うので、洗い終えたら自然乾燥させずにタオルで優しくふき取りましょう。

最後に

みなさん、漆のことを少しでも分かっていただけましたか?漆は扱いがとても難しく、生きている塗料とも呼ばれています。職人は、この漆を使用し、鮮やかな漆器へと作り上げます。素敵な日々の食卓に、漆器のある生活をはじめてみましょう。ぜひ毎日使う箸から、使用してみてはいかがですか。

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