輪島塗の漆器が高価な秘密とは?
皆さんは「輪島塗」と聞いて、どのようなイメージを持たれますか?
全国には、たくさんの漆器がありますが、なぜ「輪島塗」はそんなに価格が高いのか?と思っておられると思います。
今回、箸屋ではありますが、輪島に住み、漆を扱っている私が、皆さんの疑問にお答えしたいと思います。
もちろん、詳細な答えは難しいので、私が知っていること・および調べたことをお話ししたいと思います。
1.輪島塗の歴史
それでは、輪島塗の価格が高い理由を話す前に、どのような歴史があるかをお話しさせていただきます。
輪島市では、なんと縄文時代から漆器が作られていたといわれています。
縄文時代って、私が学校で習ったときは、まだ稲作もなく、狩猟などで生活していた時代でした。
そんな大昔から作られていたんですね。
輪島市と同じ能登半島の七尾市にある「田鶴浜町三引遺跡」から、縄文時代に作られた漆器が出土してることから、輪島市でも縄文時代から漆器が作られていたといわれています。
びっくりですね!
そこから時は流れて室町時代、輪島塗の技術の原型が見られるようになります。
現存する最古の輪島塗といわれているのは、大永4年(1524年)に造立された輪島市河井町にある重蔵神社の「重蔵権現本殿の朱塗扉」です。残念ながら現物を見たことはありませんが・・・。
なお、輪島塗の技術のルーツはどこか?ということについては、いろいろな説があり定かではありません。
有力な説の一つとして、紀州の根来寺の僧侶が輪島にやってきて、寺社の家具やお椀・お膳などを作ったときに、技術が伝来したとの説があります。
その後、輪島塗には欠かすことのできない「輪島地の粉」を漆に混ぜて塗るという技術が生まれ、堅牢な漆器ができるようになったようです。
ちなみに「輪島地の粉」とは、輪島市内の小峰山でとれる珪藻土を焼いた後、細かく砕いた粉末のことです。
現在、小峰山には地の粉を作る工場があり、輪島漆器商工業協同組合が運営しています。
また、その工場の前には、「地の粉発見の碑」が立っており、毎年「漆祖祭」が営まれており、今年は私も参列させていただきました。
江戸時代になると、輪島が海運の要所という地の利を生かし、行商という独特の販売形態で、輪島塗は全国に広まっていき、現在に至っています。
輪島塗には長い歴史と伝統があることがお分かりいただけたところで、なぜ輪島塗が高価なのかという本題に戻ります。
輪島塗が高価なのは、一言で表すなら、作り上げるまでの工程の多さといえると思います。
輪島塗が出来上がるまでに100以上の工程があるんです。想像以上でしょ!
2.輪島塗が出来上がるまで
それでは簡単に輪島塗の工程を紹介したいと思います。
1.木地
輪島では作る木地によって、4つに分類されています。
①椀木地・・・ケヤキやトチなどを使い、ロクロを使用して椀や盆を作る。
②朴木地・・・主に朴の木を使う。仏具やスプーン・猫足などを、木を刳り出して作る。元は指物木地。
③曲物木地・・・アテ・ヒバの柾目を使って、丸盆など側面の板を曲げて作る。
④指物木地・・・主にアテを使い、重箱や膳など板を組み合わせて作る。
2.塗り
①下地・・・輪島塗の重要な特徴である「本堅地(ほんかたじ)」や「布着せ」という技法により、木地を丈夫にし、漆を塗りやすくする。
この下地には数多くの工程があり、輪島地の粉も使われる。
このような充実した下地作業が、「堅牢」な輪島塗の根幹といえる。
②中塗り・・・下地が終わったものに、油分を含まない中塗り漆を刷毛で塗る。
この工程により、下地に中塗り漆が浸透し、より強度が高くなる。
漆が固まったら、表面が平らになるまで水研ぎをする。
③上塗り・・・中塗りの工程が終わったものに、最上質の上塗り漆を刷毛で塗る。
最後の仕上げの工程であり、細かなチリやほこりが付かないよう、特別の塗部屋で行う。
3.加飾
①沈金・・・沈金とは、漆面をノミで彫り、できた溝に漆を塗りこみ、金銀の箔や紛を固着させる技法。
漆の塗りが厚い輪島塗に適しており、輪島塗を代表するといえる技法。
②蒔絵・・・蒔絵とは、漆で文様などを描き、漆が乾く前にその上に金銀の粉を蒔き、固着させる技法。
「高蒔絵」「平蒔絵」「研出蒔絵」「螺鈿」等多くの技術が確立されている。
③呂色・・・上塗りが終わった漆面を、炭で磨いては生漆を塗るという作業を繰り返すことにより、鏡面のようなつやを出す技法。
以上が輪島塗の工程を簡単に説明したものです。
これだけ数多くの工程と職人の手を経て完成する輪島塗が高価なのも納得できるんではないでしょうか。
3.輪島の塗師屋さん
輪島では、これら数多くの工程を取り仕切り、たくさんの職人を束ねて輪島塗を製作する業者(人)を「塗師屋」と呼びます。
輪島塗のコーディネーターですね。
輪島市にはたくさんの「塗師屋」があります。その中でも、「輪島漆器大雅堂」さまは岩多箸店の隣にあり親戚にもなります。
もっと詳しい輪島塗の話が知りたいと思われた方は、ぜひ「輪島漆器大雅堂」さまの記事をご覧ください。
輪島漆器大雅堂 ホームページ https://www.taigadou.com/
岩多箸店は、「塗師屋」ではありませんが、これからも塗箸の専業としてがんばっていきます。
岩多箸店の代表です。
輪島で生まれ、小・中・高まで輪島で過ごし、その時に箸製造の手伝いを経験し、すべての工程を学びました。
金沢大学に進学し、経済学を学び、卒業後北陸銀行に入行。たくさんの方々と出会い、かわいがってもらいました。
16年勤務後、輪島に戻り箸製造の手伝いを始め、先代から経営を引き継ぎ、現在に至ります。
生まれ育ち大好きな輪島から、お箸を熟知して、私たちが作った自慢のお箸を皆様にぜひ使っていただきたいと思います。