輪島塗のお箸はどうやってできるの⁉
今回は、輪島塗のお箸の製造工程について書いていきます。
まず初めに、「輪島塗」とは何か分かりますか?
簡単にいうと、「輪島塗」とは、石川県輪島市で製造される漆器のことです。
ただ、この「輪島塗」という言葉を使うためには、厳格な製造工程の決まりがあります。
この製造工程について紹介します。
①素地(木地)
素地(木地)の材料は、木材・布等の伝統的に使われてきた漆を吸い込む素材とし、ヒバやケヤキ、ホオノキなどが多く使われている。
ちなみに能登ではヒバをアテ(あすなろ)と呼んでおり、昔から能登には豊富にあったようです。
その素地を椀木地(挽き物)、指物、曲物、朴木地(ほうきじ)などに加工して木地ができます。
②下地
下地の工程は非常に多くあり、輪島塗と他の産地の漆器との違いが如実に表れています。
まず大切なのは、「布着せ」をすることです。
「布着せ」とは、木地の壊れやすい所を、麻布等を使って補強する作業です。
これは、漆を使って、補強する部分に麻布等を貼る作業です。
また、重要なこととして、「輪島地の粉」を使用するということがあります。
「輪島地の粉」とは、輪島市の小峰山(現輪島中学校、旧松陵中学校の近く)でとれる珪藻土を蒸し焼きし、細かく砕いたものです。
この「輪島地の粉」と生漆と米糊を合わせたものを下地漆といい、これをヘラで木地に塗っていきます。
最初は「輪島地の粉」が粗いもの(一辺地)から始め、二辺地、三辺地と進みます。
この間には、研ぎの作業も入ります。
この他にもまだまだ下地工程はありますが、私は、輪島塗の特徴を表しているのがこの「布着せ」と「輪島地の粉」の使用だと思っています。
③上塗り
上塗りの工程は、天然漆を使用します。
仕上げなので、ホコリやチリは大敵です。
このため、隔離した部屋(塗師蔵等)で慎重に作業します。
輪島塗では下地工程と同様に、伝統的な技法で行うこととなっています。
④加飾工程
加飾工程は、沈金・蒔絵・呂色などがあり、これも伝統的な技法が要求されています。
- 蒔絵(まきえ)・・・蒔絵筆と呼ばれる細い筆に漆をつけ、絵を描き、その上から金粉や銀粉をそっと蒔く。
- 沈金(ちんきん)・・・のみなどの刃物で模様を彫り、溝の部分に漆を沈めて金粉を刷り込む。
- 呂色(ろいろ)・・・上塗りで仕上げた後、艶を出すため漆を刷り込みながら磨き上げていく。
以上のすべての工程が揃って、輪島塗といえる漆器となるんです。
その工程は100以上、期間は1年以上かかって製造される「輪島塗」。
「輪島塗はなぜこんなに高いの?」とよく質問されますが、その答え、わかりますよね。
この「輪島塗」のふるさと輪島市において、岩多箸店は塗り箸の製造を行っています。
そこで、お箸についての「輪島塗」の定義はどのようなものかを説明したいと思います。
以前は、輪島で漆を塗ったお箸はすべて「輪島塗」としていました。
しかし、「輪島塗」が地域団体商標の商標登録を取ったのを機に、輪島木製塗箸の表示基準について、箸事業者との協議が始まりました。
話し合いの結果、輪島漆器商工業組合として、以下の通り、三種類に分かれた表示基準が定められました。
①輪島塗箸
木製木地(ヒバ・アテ等)、輪島地の粉下地、天然漆の下地・上塗りを施したものとし、このお箸には「輪島塗」の表示ができるものとする
②輪島うるし箸
木製木地で上塗りが天然うるしでも、地の粉下地が施されておらず、下地や箸の頭部分に一部でも合成樹脂塗料を使って仕上げたお箸
③わじま箸
木製の木地に、天然うるし以外の合成樹脂塗料を、下地・上塗りなど、塗り重ねて仕上げたお箸のことを言います。一口に合成樹脂塗料と言っても、その種類は数多く、落ち着いたシックなものから、派手なカラフルなものまで、多種多様なお箸が作られています。
この表示基準を適用すると、今まで製作していたお箸のほぼすべてが「輪島塗」とは認められないことになりました。
なぜなら、「輪島地の粉」下地をしたお箸はほとんどなく、また、お箸の頭部分を漆で仕上げたお箸もほとんどなかったからです。
これは岩多箸店だけではなく、輪島の大多数の箸業者も同様であったと思います。
岩多箸店として、「輪島塗」のお箸はやめようという意見もありましたが、これでは輪島市でお箸を製造している意味がないのではとの思いが強かったのも事実です。
そこで、岩多箸店として「輪島塗」の表示ができるお箸を製作するプロジェクトを立ち上げました。
ここから、その製造工程を紹介したいと思います。
①素地(木地)
まず、木地を選別し、キズや曲がりなどのある木地を取り除きます。
その後、選別した木地に生漆を塗ります。
この後、研ぎを挟んで、また漆を塗ります。
②下地
ここから「輪島地の粉」を使った下地に入ります。
ここは、何度も何度も失敗し、試行錯誤を繰り返してようやくできたところなので、申し訳ありませんが、詳しくはお話しできません。
この下地が終ったあと、きれいに研ぎを入れます。
ここで、お箸の表面をきれいにしておかないと、仕上がりに差が出てきます。
その後、中塗りを二回し、上塗りに進みます。
この間にも、もちろん研ぎを入れます。
ここで一つ説明を加えさせていただきますと、お箸に漆を塗った後、しめ風呂に入れて漆を固めます。
これは、漆が固まるためには、適度な温度と適度な湿度が必要だからです。
この温度と湿度の管理を怠ると、漆が固まらなかったり、急に固まって縮んだりして、ダメになってしまいます。
また、色物の漆は、早く固めると黒ずんでしまい、本来の色彩が表現できなくなってしまいます。
それほど、漆を固めるというのはデリケートなんです。
ここでは漆を固めると言っていますが、漆を乾かすというほうが一般的かもしれません。
③上塗り
上塗りは、ホコリやチリが大敵なのは、先ほど説明した「輪島塗」と同様です。
この上塗りが終ると、お箸が完成です!とは言えないんです。
ここから、お箸に漆を塗るための持ち手の部分を切断し、長さを揃えないといけないんです。
お箸を切断するということは、その断面が白木地になっているということです。
ここから、一番最初に戻り、木地に生漆を塗るところから始まって、同じ工程を再度実施するということになります。
ということは、これまでかかった時間がまたかかることになります。
よって、「輪島塗」のお箸は、通常のお箸の何倍もの時間と手間がかかるんです!
先ほども言いましたが、輪島塗が高いということには、このような理由があるんです。
最後に
この「輪島塗」のお箸。実際のところ、今まであまり需要はありませんでした。
岩多箸店として、従来のお箸と比べてかなり高額となってしまうこと、製作にかなりの時間がかかってしまうことから、積極的にお客様におすすめしてきませんでした。
しかしこのような時代になり、直接個人のお客様からお話を聞くことが増え、大切な方への贈り物に高級なお箸の需要があるということがわかりました。
また、いろいろやりたいことも頭に浮かんでいます。
これからは、少しづつですが、「輪島塗」のお箸も世に出していきたいと思いますので、オンラインショップもぜひご覧ください。お楽しみに!
参考 輪島漆器商工業組合 https://wajimanuri.or.jp/
岩多箸店の代表です。
輪島で生まれ、小・中・高まで輪島で過ごし、その時に箸製造の手伝いを経験し、すべての工程を学びました。
金沢大学に進学し、経済学を学び、卒業後北陸銀行に入行。たくさんの方々と出会い、かわいがってもらいました。
16年勤務後、輪島に戻り箸製造の手伝いを始め、先代から経営を引き継ぎ、現在に至ります。
生まれ育ち大好きな輪島から、お箸を熟知して、私たちが作った自慢のお箸を皆様にぜひ使っていただきたいと思います。